Cosmetic in Japan 美容医学への扉-東京大学美容外科-アンチエイジング
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「脂肪由来細胞を利用した軟部組織増大」

吉村浩太郎 (2005年11月)




 ありがとうございました。東大形成外科の吉村と申します。それでは、本日私どもがやっております脂肪由来細胞を利用した組織増大について、お話をさせていただきたいと思います。
 私ども東大病院におきましては、1998年に美容外科を標榜いたしました。この理由は美容に対する世の中のニーズが大きくなったこと、それに対して私どもの医育研究機関としましてもやはり一定の役割を果していかなければならない。
 実際に7年前に始めまして、美容外科の患者さんはもともとゼロだったわけですが、昨年の統計によりますと、既に初診患者の60%が美容の患者さん、すなわち自由診療で行われているということになりました。決して保険の患者さんが減っているわけではありませんが、その分それだけの需要が掘り起こされている。これは私どもの病院のたまたまの話でございます。
 今美容医療と言いますが、この領域にはもともとメスを使うような手術による美容外科という領域しかございませんでした。ところが、90年代に入りましていろいろなレーザーであるとか、しみ、しわの治療、さまざまな新しい治療が出てきまして、患者さんから見て美容医療の敷居が低くなったという経緯がございます。その後、内科的な治療や将来に向けての再生医療といったような研究等も行っております。こういったものを含めまして一応我々は「美容医学」というふうに呼んでおります。
 きょうお話しいたします組織増大とは、あくまでも美容的な改善を目的として、組織の体積を増やすということでございます。例えば、顔ですと、奇形の患者さん、若返りのために膨らませようという患者さんもいらっしゃいます。バストに関して言えば、漏斗胸、乳がんの術後の患者さん、もしくは美容的に膨らませようという患者さんもいらっしゃいます。また、お尻に関しても美容的にお腹をへこませてお尻を出したいという希望を持っている患者さんもいらっしゃいます。その他外傷によるもの、がんの術後の組織欠損に対しての治療というようなことを目的としているものでございます。
 豊胸術はアメリカの昨年の統計では年間26万件行われております。ところが、残念ながらこの豊胸術といいますのは人工物、通常はシリコンや生理食塩水のバッグですが、このようなバッグの抜去術も、実際に年間数万件行われております。その理由は人工物による後遺症、副作用といったものが非常に多い、にもかかわらずそれだけの需要があるというのもまた事実でございます。日本では推定ですが、年間3万件ほど行われているのではないかと思います。人工物の後遺症といいますのは、カプセルができたり、漏れたり、露出したり。どうしても人工物の場合ある一定の確率で起こってしまうところがございます。
 一方、自分の組織がより安全に利用できないかということのアプローチですが、脂肪吸引、これはアメリカで年間32万件、全世界的には年間100万件が行われている非常に一般的な痩身術でございますが、この取った脂肪を移植する治療がありまして、これは主に顔に対してアメリカで年間5万6千件行われています。乳房に関しましては、線維化やしこりになったりすることが乳がんの診断の妨げになるということが以前ありまして、米国では行われておりません。日本や韓国では大体年間2千件ほど乳房に対しても行われております。また、近年米国の方でも乳房再建後の形態の修正などの目的で、脂肪注入法が肯定的に米国形成外科学会誌で取り上げられております。
 脂肪吸引とは、非常に小さい傷を入れましてそこから細いカニューレで生理食塩水、アドレナリンが入ったものですが、注入しまして、その後に陰圧をかけて細いカニューレで中の脂肪を吸うというものでございます。治療法自体は確立しておりまして、1L、2L程度であれば、輸血などの危険性なしに手術ができるというものでございます。
 脂肪組織は、脂肪細胞、その前駆細胞や内皮細胞、また細胞間基質、いろいろなものから成り立っておりまして、取ったものは通常は捨てるわけですが、それを有効利用できないか、そういった再生医療の研究が行われております。
 脂肪吸引した場合にはこのように脂肪が上に浮いてくるわけですが、こちらの方は生理食塩水や実際に患者さんから出た出血やら脂肪の破片やらが混じった液体と、二層に分かれます。それぞれからこういった細胞をペレットとしてとることができます。このペレットの中にはいろいろなものが混じっていますが、中には接着して増殖するような、また多分化能を持つような細胞が存在しております。この表はフレッシュでとってきた場合に、脂肪の部分、廃液の部分から、これは1000CC当たりですが、10の9乗単位の細胞がとれてまいりまして、1週間培養したときにもこういった形で増えてくるというものでございます。実験レベルの話ですが、培養することによって脂肪に分化したり、軟骨に分化したり、骨に分化していったりというような性質を持つ、いわゆる多能性と言われているような細胞が10%程度存在いたします。
 また、その細胞の性質を見るときに表面抗原といいまして、細胞に出ている受容体などの表面抗原を調べることがありますが、この浮いた脂肪からとった細胞と、廃液からの細胞、こちらは血液由来の細胞がフレッシュの時点ではかなり混じっておりますので、大分プロファイルが違うんですが、培養しますとどちらからとったものもほとんど同じような細胞で、脂肪組織由来の細胞が取れてまいります。
 こういったものを長期的に培養して、例えば、数が足りない場合には増やしていく。通常1週間から10日ぐらい培養すると、大体細胞の数を100倍くらいに増やすことができます。それを10週、20週と繰り返していきますと非常に増えていく。その間、CD34というのは血管とか血管内皮とかのよく幹細胞のマーカーとして使われるんですが、最初は非常に高いのですが、培養していっても、ある程度幹細胞の特性をもった細胞が維持された状態で、数をふやしていくということが可能でございます。
 よく比較の対象になりますと、やはり第一の細胞源としての骨髄でありまして、骨髄移植を始め非常に多く目的で骨髄由来の細胞が使われております。また、似たものとして皮膚由来の線維芽細胞との比較もよく行われます。脂肪由来細胞、臍帯由来細胞、あと真皮から線維芽細胞、骨髄からとった接着細胞といったものが、非常にお互い似通った共通の性質を持っているとともに、その組織由来の特異的な特徴も持っているというところがございます。脂肪由来細胞の場合には、特に先ほどから申し上げておりますCD34というものがこの中では一番高く発現しているという特徴がございます。
 これはフローサイトメトリーという測定法で調べることができますが、廃液由来の細胞からも、CD45というのは血球のマーカーでございまして、こちら側に出ている細胞は末梢血由来の細胞です。逆にそのネガティブの細胞が脂肪組織に由来する細胞であります。こういったいろいろ複数混じったものが採取され、ここの細胞をとりますと、培養して非常にたくさん増やすことができます。廃液由来ですと、患者の出血量によってばらつきはありますが、大体3〜15%ぐらいの細胞数で脂肪由来幹細胞がとれてきまして、また、上の浮いた脂肪を酵素処理してやりますと、2〜5割くらいはこういった脂肪由来の細胞を採取することが可能になります。
 また、さらに細胞集団をいろいろ細かく調べていきますと、実際には幾つかの種類の細胞が混じっているというものでありまして、それを細かく分けて調べていくことも可能でございます。我々もある程度組成を調べまして、大きく分けて5種類の細胞、細かく分けるともうちょっとありますが、そのような細胞群がとれてきた細胞のペレットの中に混じっている。さらに、血液由来の白血球、リンパ球、顆粒球といったものも一緒に混じっているというセルペレットということになってまいります。あくまで脂肪由来ということに限りますと、この5つが特徴的な細胞の種類。大体このくらいの割合で入っているという細胞群でございます。
脂肪組織、細胞源としての特徴は、大量に採取が可能であるということ。また、非常に細いカニューレでとることができますので、瘢痕も残さないということ。また、局所麻酔でもある程度の量であれば可能である。もともと痩身効果を利用してやる方が多いということ。最終物は捨てられているということ。非常に一般的に行われているような手術であるということです。肥満は最近は健康の危険因子ということで非常に問題になるわけですが、そういう意味でも、欧米をはじめ脂肪吸引を受けられる患者さんが一般的に多くいらっしゃるということです。そういう意味合いで、脂肪が再生医療の新たな細胞源として注目を浴びている組織の1つでございます。
 これはロンバーグ病といいまして、成人になってから顔が凹んでくるのですが、脂肪を移植する、ところがまた半年たつとこうやって減ってくる。これは脂肪組織だけを移植した場合ですが、もともと組織に血行がないということもありまして、その永続性、有効性が低いというところがもともとございました。
 ところで、我々が移植している、吸引してシュレッダーにかけられたような脂肪組織ですが、それと、一般的な正常な脂肪の塊、これらを同じ大きさで比較しますと、含まれている幹細胞の数が非常に違うということがわかります。我々が今まで移植してきた吸引脂肪というものは、残念ながら次世代の前駆細胞が少ない割合で入っている脂肪である。そういうことが臨床効果が悪いことの一因になっているのではないかと我々は考えました。こういう経緯より、別にとった細胞群を加えて移植することによって、ある程度有効性、生着、生存率、永続性を高くすることができる、そういうことに対しての動物実験を行いました。周囲から血管が入ってきて組織が生着するわけですが、細胞群を加えると毛細血管の血管新生が非常にいい。また、そういった細胞をラベリングして入れますと、従来の脂肪の前駆細胞と同じような形で細胞間基質や成熟脂肪細胞間に存在しているということ。また、ラベリングして脂肪と一緒に移植した場合、血管内皮細胞に特徴的な表面抗原、たんぱく質を発現し、内皮に分化しているというようなことがわかります。
 また、別の動物実験におきましても、もともとラベリングされている動物の細胞を混ぜて入れたところ、このように血管内皮にその脂肪由来の幹細胞が分化している。こちらはホスト由来の血管、こちらは移植された細胞によってつくられた内皮というような形で、内皮に分化しているということもわかってまいりました。こうして、我々はこういった細胞をアシストとして使うような脂肪移植の概念をつくりまして、実際に臨床も行っております。
 これ自体が脂肪に実際に分化することも考えられますし、また、先ほどお示ししましたような内皮細胞に分化する。また、それが補充されることによって、幹細胞として存在することによって、次世代のターンオーバーに備えることにより、組織の永続性がよくなるということ。また、この細胞自体は低酸素環境、阻血下おいては、VEGFなどの血管新生因子を非常に強く分泌するということが実験的に知られておりまして、そういった影響によるホスト由来の血管新生を促進するというような形の効果が、期待できるというふうに考えております。
 以下割愛。

 

 


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