Cosmetic Medicine in Japan -東京大学美容外科- トレチノイン(レチノイン酸)療法、アンチエイジング(若返り)
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脂肪移植による豊胸術

吉村浩太郎 (2006年8月)

 

1.概説
脂肪移植の利点は、@採取部にも移植部にも瘢痕を残さない、A自家組織移植であるため人工物に伴う後遺症がない、B有茎・遊離皮弁に比べて形態形成の自由度が非常に高い、C長期的に自然な加齢変化を示す、などがあげられる。一方、欠点として、@生着率が悪い、A結果が予測しにくい、B線維化(しこり)や石灰化を起こすことがある、などがある。
a. 目的 豊胸。通常の美容目的の豊胸をはじめ、乳房の先天性発育不全・変形、乳癌術後の乳房欠損・変形、漏斗胸などあらゆる乳房の組織増大に対応可能である。
b. 適応 過度にやせた人には難しい。最低42キロ程度の体重のある成人女性。
c. 準備 通常の脂肪吸引術で使用する脂肪吸引器。チューリップなどのシリンジタイプの吸引器では大量の脂肪吸引・注入術には不向きである。
d. その他 注入脂肪の処理や乳房への注入には、専用のデバイスがないと効率が悪く、臨床結果も悪い。特に、脂肪の遠心器(濾過器)、注入用シリンジ、注入用注射針が重要である(下記参照)。
2.手術術式
1) 脂肪吸引:採取部は通常は大腿(または+腹部)である。移植材料は一般的な脂肪吸引(500-700mmHg)により採取する。超音波やパワードは使用しない。吸引カニューレは2mm以下の細いものは移植材料の採取には不向きで、内径3mm程度が望ましい。
2) 移植脂肪の処理:700-1200G程度の遠心処理により、油分・水分・血液成分を可能な限り除去するとともに、移植脂肪の体積ををコンパクトにする(図1)。移植体積あたりの組織増大体積は処理により大きく異なる1)。遠心以外の方法もあるが、目的は同じである。室温で機械的な処理を行うことにより脂肪細胞はどんどん破壊されていくので注意を要する。
3) 脂肪注入:処理を終えたらすぐに注入する。室温で放置したり、機械的な処理を行うことにより脂肪細胞はどんどん破壊されていくので速やかな移植が重要である。我々は、血管造影用のスクリュー式ディスポシリンジを使用している(図2)。スクリュー式のためアシスタントが必要になるが、極微量ずつの注入が可能であるとともに、一気に入れ過ぎることがない。乳房に的確に層々で注入するには、長い注射針が必要である。我々は肝生検用の150mmの18G針(鋭針)を使用している(図2)。内筒もあるため、詰まった場合も中の掃除をすることができる。乳房下溝、乳輪辺縁などの4箇所から術者が針を刺入し、注入針を少しずつ引きながら、アシスタントがプランジャーを回して細い線状に注入していく(図3)。移植は乳腺下の筋層など深い層から順に入れていき、最後に皮下に注入して仕上げる。術者が挿入角度や深さを少しずつを変えてきれいに注入していく。通常は乳房片側に180-300mlの脂肪を注入する。
4) 術後ケア、経過:消毒や抜糸は不要である。シャワーは翌日から、入浴は1週間後から可能である。術後は事前に用意した適切なサイズのブラジャーで寄せて上げる状態を2週間維持させる。移植脂肪は当初の1ヶ月は不安定な状態にあるので、バストのマッサージは3ヶ月は禁止する。乳房はおよそ6ヶ月で萎縮が終わり、安定する。半年、1年、2年後に乳房撮影、MRIで石灰化など異常がないかをチェックする。
3.合併症とその予防
a.合併症
脂肪吸引に伴う合併症に加えて、脂肪壊死に伴う@生着不全、Aしこり、嚢疱形成、石灰化、B感染、などがあげられる。予防には、生着率を高くする工夫をすることに尽きる。基本的なことは、1)採取した吸引脂肪は速やかに移植すること、2)遠心、濾過などの処理により水分を除去すること、3)移植は微量(0.5mL)ずつ細かく満遍なく移植すること、である。
b.乳房への脂肪移植の賛否
 乳房への吸引脂肪の移植は80年代初頭よりBircollをはじめ散発的に行われたが、石灰化ができることが報告されたため、乳癌の診断の妨げになる可能性があるうえに美容的な増大効果が些細であるとして、否定的な意見が1987年から雑誌PRSにて複数のレターとして掲載され、米国形成外科学会の特別委員会は1992年10月に豊胸目的の脂肪移植を非難するコメントを発表するに至った。その後人工物による豊胸術が標準とされるが、人工物による高頻度のカプセル拘縮(石灰化も)、リップリングなどの外科的修正を要する後遺症があるために、また乳房縮小術など他の乳房形成術においても石灰化が頻回に認められることから、乳房への脂肪移植も一部の形成外科医において行われており、議論が耐えない領域である2)。採取・前処理・移植技術の改良により、脂肪移植術のその施行数は増加の一途をたどっている(米国ASPS統計で10年間で7倍に増加)。こうした脂肪移植に関わる技術の進歩、また乳がんの診断装置・技術の進歩により、最近乳房に対する脂肪移植を見直す動きも一部に見られる3)。


図1.遠心処理前後のシリンジ。
我々は吸引脂肪を700-1200gで3分遠心している。血液成分が部分的に除かれ、体積も約3割コンパクトになる。


図2.脂肪注入用のシリンジと注入針。
微量注入が可能で、長い注射針により大胸筋内にも適切な注入が可能となる。


図3.脂肪注入の様子。
術者が注入針を把持して少しずつ移動させる。アシスタントはプランジャーを回して、脂肪を注入していく。深い層から順に脂肪を積み上げるように移植していく。

参考文献
1) Kurita M, et al. Influences of centrifugation on cells and tissues in liposuction aspirates: optimized centrifugation for lipotransfer and cell isolation. Plast Reconstr Surg, in press.
2) Shiffman MA. History of breast augmentation with fat. In Autologous fat transplantation. (ed. Shiffman MA), Marcel Dekker, Inc., NY, pp199-206, 2001.
3) Spear SL, et al. Fat injection to correct contour deformities in the reconstructed breast. Plast Reconstr Surg 116:1300-1305, 2005.

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