Cosmetic Medicine in Japan -東京大学美容外科- トレチノイン(レチノイン酸)療法、アンチエイジング(若返り)
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Facial rejuvenationの動向

東京大学医学部形成外科  吉村浩太郎 (2000年5月)

はじめに

 社会の高齢化が進み、美容外科領域におけるfacial rejuvenation(顔の若返り)治療の重要性は今後ますます大きくなることに疑いの余地はない。欧米では非常にその治療は進んでおり、わが国でも美容外科全体に対するニーズが高まるとともに、これまでエステサロンや化粧品で若返りに気を使ってきた人の中にも美容医療による若返りを試みる人が増えてきたように思われる。特に、近年のレーザーやケミカルピーリングの一種のブームともいえる患者側の関心の高さは、外科的手術以外のより負担の少ない治療法に対する患者側の抵抗感のなさを反映しているのであろう。

 Facial rejuvenationの治療には様々な手段が用いられているが、それぞれの手段は固有の目的があり、治療対象も各々異なっている。従って、いくつかの治療方法を組み合わせて総合的な治療を行うことが本来は理想的である。例えば、faceliftを行っても、皮膚の物理的緊張は改善されるが、皮膚自体の加齢変化や紫外線による光老化は何ら改善されない。本稿では、1)外科的若返り治療、2)skin resurfacing、3)その他の治療に分けて、近年の動向について述べる。

 

1)外科的rejuvenation治療

 Facial rejuvenation治療を美容外科全体から見た場合、メインストリームはやはりfaceliftである。治療効果だけを考えた場合、重力による軟部組織の下垂や余分な皮膚の皺を取ることが一番効果がある。頬部、頚部のlifting、中顔面、前額のliftingに加え、上下眼瞼の皺取り術もその若返り効果は非常に大きい。適応は限られるが、肥満した患者には顔面、頚部の脂肪吸引をあわせて行うことも有効な場合がある。逆に高齢者では脂肪注入によって、老化して現れる軟部組織の萎縮を是正し、皮膚のタルミをとる手術も、下眼瞼、頬部、側頭部などにしばしば行われる。患者の希望や顔貌の特徴に応じた複合術式の選択が必要である。

 Liftingについては、皮膚、SMASレベルのliftingに加えて、骨膜上、骨膜下の内視鏡を用いたliftingも中顔面(midfacelift)や前額部(browlift)を中心に広く行われるようになってきた。Facelift手術における剥離範囲、liftingのlayer、ligamentの処理など手術術式についての議論は今後も繰り返されていくであろう。手術後の後戻りを小さくするための工夫、欧米人との骨格の異なる東洋人にあった術式の工夫、効果の及びにくい顔面中心部を改善する工夫などについてもまだ検討の余地はあると思われる。男性患者へのliftingの適応という課題も残されている。

 内視鏡や脂肪注入による若返り手術、眼瞼では経結膜アプローチによる手術などは、術後瘢痕の面からは非常に優れており、今後手術法の改良により大きな効果が安定して得られるようになれば、さらに普及していくことになるであろう。

 外科的rejuvenation治療は治療効果は大きいが、一定の回復期間を余儀なくされる。一定の効果が得られるのであれば、腫れが少ない、回復が早いという観点から、より侵襲の少ない手術術式についての今後の改良も期待されるところである。

 

2) Skin Resurfacing

 Skin resurfacingには大きく分けて3つあり、レーザーによる方法(laser resurfacing, laserabrasion)、化学薬品を用いる方法(chemical peeling, chemabrasion)、機械的な損傷を加える方法(mechanical peeling, dermabrasion)がある。皺の改善を目的とするresurfacingでは、どの方法も真皮に何らかの障害を加えることにより、2次的にdermal remodellingを誘導して、シワの改善を図るのが共通したコンセプトである。

 レーザーを用いるresurfacingの代表的なものは炭酸ガスレーザーであり、術者の技術によらず安定したresurfacingが行える、真皮に熱変性を加えることで真皮の収縮が期待できるという利点から、欧米では90年代に入り広く普及し、dermabrasionにとって代わるようになった。治療効果の面からは、海外では非常に評価が高い。しかし、わが国では東洋人特有の術後の色素沈着や遷延する紅斑の問題から、あまり普及していない。その後、erbium-YAGレーザーが、より侵襲、副作用の小さい治療法として開発された。最近はresurfacing効果を高めるためにパルス幅を長くしたerbium-YAGレーザー(CO3R, Cynosure, Chelmsford, MA)も現れた。

 上記の2つはablative laserであるが、最近ではnon-ablativeな照射で若返りを試みる装置がいくつか出てきている。一つは、通常よりも長い波長1320nmのNd:YAGレーザー(CooltouchR, Laser Aesthetics Inc., Auburn, CA)である。さらにクーリング装置を装備したショートパルス色素レーザー(NLiteR, Medical Alliance Inc., Irving, TX; VbeamR, Candela, Wayland, MAほか)や、やはりクーリング装置を持つロングパルスNd:TAGレーザー(LyraR, Laserscope, San jose, CA; CoolGlideR, Altus Medical Inc., Burlingame, CAほか)がrejuvenation目的のnon-ablative laserとして試されている。ほかには、レーザーではないが、560nmから1200nmの幅を持った強い光を照射するフラッシュランプ(PhotodermR, ESC Japan, Tokyo)も表皮に障害を与えず、真皮乳頭層のコラーゲン新生を促すとして、若返り目的に使用されている。これらのnon-ablative rejuvenationは、いずれも複数回の照射を前提とし、表皮をクーリングで保護しながら真皮のみに熱変性を加えようと試みている点では共通している。臨床効果は非常に小さいが、副作用がなく回復期間がないという利点がある。こうした反復照射治療による蓄積されうる効果については今後の臨床および基礎研究を待たねばならない。未治療の老化皮膚の方が治療効果が現れやすく、ニキビ痕や多数回のケミカルピーリングを受けた皮膚では効果が現れにくいと思われる。一方、メラニンをターゲットとするQスイッチのルビー、アレキサンドライトなどのレーザーは、老人性色素斑に広く使用されている。

 ケミカルピーリングでは、レチノイン酸、ハイドロキノンを用いたシミの治療に加えて、長期的にレチノイン酸を使用することにより、小皺の改善も期待することができる。レチノイン酸治療も改良が加えられ、広い範囲の色素沈着病変に大きな効果が得られるようになった1)。外用治療としては、その他N6-furfuryladenine(kinetin, KineraseR)やビタミンCやその誘導体などが若返り目的で使用されるが、効果は非常に弱い。AHAやサリチル酸などによるsuperficial peelingの反復治療も行われるが、真皮に与える蓄積的効果については不明の点が多い。Dermal remodellingの効果に限れば、TCAやphenol(croton oil)を用いたmediumからdeepのケミカルピーリングの方が明らかに効果が高く、海外に限れば多くの報告がなされている。レーザーやdermabrasionと比較した場合、ピーリングの深さがわかりにくいため、また場所ムラを生じることがあるため、熟練するのに経験を要するという問題点がある。しかし、必要経費が安い、広範囲を短時間で行える、blendingでdemarcationをごまかすことができる、頚部にも行える、などの利点もある。Medium以上の深さのピーリングを行うには、TCAやフェノール、もしくは2種以上のピーリングの組み合わせを行うことが必要になる。また、deepピーリングを行うには、静脈麻酔も必要になる。こうした深いピーリングは、わが国では色素沈着、創傷治癒や紅斑の問題などの課題も多く残されており、まだ広く行われるには至っていない。現状では、日本人に対しては浅いピーリングが一般的であり、表皮のムコ多糖類の増加やしみ、くすみの治療は可能であっても、真皮のremodellingを誘導して本格的に皺を改善することは困難である。

 機械的なピーリングとしては、電動グラインダーを用いる従来からのdermabrasionに加え、細かい粒子を吹き付け吸引するmicrodermabrasionがある。Dermabrasionは古くから行われているが、凹凸の強い変形(例えばニキビ痕や上口唇の縦ジワなど)には最も効果が期待できると言えるだろう。しかし、回復期間が必要で、やはり色素沈着や脱色素などの問題も伴う。Microdermabrasionは従来は角質を取る治療であり、ケミカルピーリングで言えば、弱いAHAピーリングに相当していたが、近年は多くの製品が開発され、強力なものでは表皮全体をも削ることができるようになった。

 角質剥離治療が、non-ablative照射が、またsuperficial peelingが表皮、真皮に対してどの程度まで効果を与えうるかについては臨床データの蓄積のみならず、今後それぞれの作用メカニズムを基礎レベルの研究によってより詳細に明らかしていく必要があるであろう。

 

3) その他の治療

 静止時の眉間や口周囲の皺にはわが国でもウシから採取したアテロコラーゲン注入剤(わが国でも認可済、ZydermR, ZyplastR, ResoplastRなど)が広く利用されているが、近年は多くの製品が開発されており、ヒト(cadaver skin)から採取したコラーゲンなどの真皮細胞外基質注入剤(DermalogenR, Collagenesis Inc., Bevery, MA)も米国で認可された。さらに、吸収が少ないという触れ込みで、患者自身から採取した組織を使ってauto-collagenを提供するサービス(AutologenR, Collagenesis Inc., Bevery, MA)も海外では行われているようである。

 アテロコラーゲンの欠点であるアレルギーの問題(テストが必要、約3%の患者に異物反応、アレルギー反応を起こす)、吸収されて消失するという問題などを解決するものとして、海外ではいくつかの製品が使用されている。ヒアルロン酸類縁体(テストは要らない、1年以内に吸収される)の注射液がいくつかの会社から販売されている。鶏冠より抽出したHylan B gel を使用した製品(0.6%; HylaformR, Biomatrix Inc., Ridgefield, NJ)、細菌発酵により合成したヒアルロン酸類縁体の製品(2%; RestylaneR; Q-Med AB, Uppsala, Sweden)などがある。さらにヒアルロン酸類縁体の2%注射液(分子量150万-250万)(RofilanR hylan gel; Rofil Medical International B.V., Breda, Netherlands)、0.5%ヒアルロン酸類縁体液にdextranビーズを入れたもの(RevidermR intra; Rofil Medical International B.V.; 吸収はされるが持続期間が長い)などがある。Hylaformが粘度(および濃度)としてRestylaneよりも優れている、collagenよりも長期に持続するとの報告も見られる2)。一方、動物から抽出したヒアルロン酸はアレルギーの可能性があるとする意見もある。今後もヒアルロン酸注射剤は多くの新しい製品が市場に出てくると予想される。

 永久的な効果を出すために非吸収性の注入物を混合した製品も出てきている。3.5%アテロコラーゲンにPMMA(polymethylmethacrylate; 永久に残る)ビーズを配合した製品(ArtecollR; Rofil Medical International B.V.)、2%ヒアルロン酸を6割、acrylic hydrogel(hydroxy ethylmethacrylateとethoxy methacrylateの重合体; 永久に残る)を4割混合したもの(DermaliveR; Dermatech, Paris, France)、ヒアルロン酸にpolyvinylhydroxyleを混合したもの(EvolutionR)など様々な趣向を凝らした製品が出ている。すべて、わが国では未認可であるが、個人輸入の形で利用可能である。

 注射剤以外では、鼻唇溝や上口唇などのaugmentationにテフロン(polytetrafluoroethelene: PTFE)(Gore-TexR, W.L. Gore and Associates, Flagstaff, AZ) implantやPTFEをチューブにして簡単に挿入できるようにした製品(SoftformR, Kinamed Inc., Newbury Park, CA)、ヒト(cadaver skin)から取った細胞外基質シート(AllodermR, Life Cell, Woodlands, TX)も出ているが、まだ広く利用されるには至っていない。

 筋緊張性の皺や笑い皺などにはボツリヌス毒素の局注が優れている。筋緊張が強くて皺のできる患者ではコラーゲンなどの注入剤を入れても、筋緊張のために早い時期に再び深い皺が形成されてしまう。前額部の横皺、眉間の縦皺、カラスの足跡などに効果が高い。これまではボツリヌス毒素Aの2製品BotoxR (Allergan, Inc., Irvine, CA), DysportR (Speywood Pharmaceuticals Inc., Maidenhead, Berkshire, UK、最近Beaufour Ipsenグループ傘下となり Ipsen Ltd.と社名変更した。)が使われていたが、本年中には新しくボツリヌス毒素Bの製品NeuroblocR(Elan Pharmaceuticals, South San Francisco, CA)が登場する予定である。製品により、1unitの力価が異なるので注意を要する。近年、指摘されている問題点は、周囲に拡散することによる目的外の麻痺誘発の他に、何回か使用した後に抗体ができることによる耐性の問題、薬剤安定性の問題(薬液のpH、保存法による相違)などがある。動物実験の結果が、ヒトにそのまま反映されないことがいくつかあり、ヒトの臨床データの蓄積による情報の重要性が大きいという特徴があり、神経毒ということもあって科学的な実証が進まないきらいがある3)。今後、各製品の特徴、適応の違いなどが徐々に明らかにされていくだろう。現在は、本邦ではBotoxRが眼瞼痙攣を適応疾患として認可されているのみで、美容目的には使用できない。個人的に海外で入手するしかないのが現状である。

 コラーゲン,ヒアルロン酸,ボツリヌス毒素ほか、いずれの注射剤においても,医師の注入技術が結果に大きく影響するため,注入技術の熟練が要求される。こうした注射剤は回復期間がなく、手軽に施行できるため、患者の受け入れも良く、今後も多くの製品が開発されていくと思われる。

 

おわりに

 Facelift手術やdeep resurfacingは治療効果は大きいものの、一定の回復期間を要する。近年の様々な新素材や薬剤の開発により、多くの種類の回復期間の短い治療が現れて、facial rejuvenation治療も大きく変わってきている。しかし、それぞれの治療法の対象は異なっているため、患者と相談のうえ,改善すべき対象に応じた最適な治療法を選択することが求められる。いくつかの手段を組み合わせた総合的な治療が可能であればより理想的であろう。一方、海外では一般的であっても東洋人であるがゆえに選択をはばかれる治療法も多く残されており、今後解決していかなければならない課題も多い。

参考文献

1) Yoshimura K, Harii K, Aoyama T, Iga T: Experience with a strong bleaching treatment for skin hyperpigmentation in Orientals. Plast Reconstr Surg 105: 1097-1108, 2000.

2) Manna F, Dentini M, Desideri P, De Pita O, Mortilla E, Maras B: Comparative chemical evaluation of two commercially available derivatives of hyarulonic acid used for soft tissue augmentation. J Eur Acad Dermatol Venereol 13: 183-192, 1999.

3) Carruthers A, Carruthers J: Toxins 99, new information about the botulinum neurotoxins. Dermatol. Surg. 26: 174-176, 2000.


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