Cosmetic Medicine in Japan -東京大学美容外科- トレチノイン(レチノイン酸)療法、アンチエイジング(若返り)
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皮膚のアンチエイジング治療の考え方−治療法の選択

東京大学形成外科
吉村浩太郎

(2005年6月)

 

はじめに−皮膚の老化(エイジング)とその治療(アンチエイジング)
 皮膚は体表を覆う器官であり他の内部臓器と異なり、その老化には加齢による老化chronological agingのみならず、紫外線による光老化(ひかりろうか)photoagingと呼ばれる老化がある。また、その治療-アンチエイジング-には、体表であるがゆえに、機能と美容という2つの側面がある。光老化の代表的症状は紫外線による真皮の菲薄化、真皮上層の弾性線維の集積、老人性(日光性)色素斑などの紫外線によるメラノサイトの異常変化、悪性変化(日光性角化症など)、真皮内血管拡張などである。メラニンの少ない白人では紫外線による真皮のダメージが大きく、皮膚癌や血管拡張などの病変が増加する。加齢変化においても、表皮のターンオーバーが遅くなる(皮膚色の変化:くすみをもたらす)とともに、角層の機能不全によりバリア機能の低下、水分保持機能の低下が起こる。皮脂の分泌は減少し、角質機能の低下とともに、皮膚の乾燥をもたらす。こうした皮膚の質的な加齢変化および皮膚を支持する皮下脂肪などの支持組織の加齢変化(支持力の低下)に伴い、皮膚のシワやたるみが生じる。
 皮膚のアンチエイジング治療は90年代に入り、コラーゲンをはじめとする注入剤fillerの開発、美容を目的としたレーザー・光治療技術の発達、ケミカルピーリングの掘り起こし、そしてボトックスの美容目的使用により大きな進展を遂げた。加齢に伴う脱毛(薄毛)も老化の1つとみなすならば、自家植毛などの禿髪治療も皮膚アンチエイジング治療の1つと言える。治療手技の面から捉えれば、美容外科的治療、皮膚科的治療、内科的治療、再生医療と分けることができるがここでは非手術療法について、治療法の選択の参考となる事項を解説する。米国の2004年統計において美容手術約174万件に対して非手術療法は約747万件に及び、美容手術がほぼ横ばいの成長であるのに対し、非手術療法はさらに増加を続けている。今後の美容医学の発展とともに、非手術療法が成長する傾向は長期的に続くことが予想される。本稿では前半は各治療法について、後半では治療対象別に概説し、詳細は各論の項に譲る。治療を提供する医師サイドに重要なのは、まずは各治療法の原理を十分に理解することで、それさえあれば自ずと適応が理解でき、新しい応用・改変や治療法の考案も可能であろう。

A:治療法
1) 外用剤
 従来、皮膚のアンチエイジング治療は、水分保持機能、バリア機能の改善を目的とした保湿剤や、紫外線防御を目的としたサンスクリーン(日焼け止めクリーム)が中心で化粧品レベルの治療であった。保湿剤、サンスクリーンは現在でもスキンケアの基本中の基本で、肌を健康に保つためにも不可欠のものである。化粧品レベルの美白剤も数多く商品化されているが、劇的な効果は期待できない。
 アンチエイジングとして一定の臨床効果が期待できる外用剤として、レチノイドと抗酸化剤がある。エストロゲンなどのホルモンの外用療法も試行されたが現在に至るまで、科学的な有効性の評価を得るに至っていない。レチノイドは4半世紀前にステロイドホルモンに続く革命的外用剤として登場し、ニキビの治療に始まり、老化皮膚や皮膚悪性変化の治療などに試みられてきた。レチノイドは、表皮においては表皮角化細胞の増殖を促進するとともターンオーバーを早め、角質の剥離、表皮内メラニン(シミの原因となる)の排出を強く促し、さらには表皮内のムチン様物質の沈着が見られる。従って、菲薄化した表皮は厚くなり、シミは薄くなり、皮膚はみずみずしくなる。真皮においてはコラーゲン産生促進、MMP抑制、血管新生促進など、とくに光老化症状の改善効果が見られる。メラニンの産生抑制作用の強いハイドロキノン(チロジナーゼ阻害作用)も漂白を目的に広く使用されている1)。アスコルビン酸やコエンザイムQ10をはじめとする抗酸化剤については酸化ストレスに対する予防効果、紫外線による皮脂の酸化抑制などが知られている。
2) スキンリサーフェシング
 皮膚のアンチエイジングを目的とした治療にスキンリサーフェシングという概念がある。これは老化した皮膚の表面に機械的、化学的作用などにより障害を与え、その後の創傷治癒により機能不全の角質、萎縮した表皮や真皮が、新生されたものに置換されることにより機能的・美容的改善を目指すものである。具体的には、機械的な作用によるmechanical peeling、ケミカルピーリングchemical peeling、レーザーによるlaser peelingがある。機械的には電動グラインダー、細かい砂や粒子を吹き付けるmicordermabrasion、さらに海外などで見られる“垢すり”もmechanical peelingの一種である。ケミカルピーリングはグリコール酸、サリチル酸やトリクロル酢酸などの酸を用いるもの、レーザーによるピーリングにはスキャナー付の炭酸ガスレーザーやEr:YAGレーザーなどが用いられる。白人では深いピーリングが可能であるため効果が高いが、有色人種では炎症後色素沈着、遷延する紅斑や創傷治癒の問題があり、ごく浅いピーリングが一般的となっている。
3) レーザー、光治療、高周波治療
アンチエイジング目的のレーザーにはシミ・イボ治療を目的とするものと小じわや皮膚の張りの改善を目的とするものがある。前者はおもにイボ(老人性疣贅、脂漏性角化症)を治療する炭酸ガスレーザーと日光性(老人性)色素斑を治療するQスイッチルビーレーザーやアレキサンドライトレーザーに分かれる。ともに治療効果は非常に高く、外用治療との併用で広範囲の色素沈着治療が可能になった2)。後者の主に小じわや皮膚の改善を目的とするものとしては、近年、術後のダウンタイムが少ないnon-ablative laserが数多く製品化されており、レーザーを用いたものから、高周波(radiofrequency)や連続波長の光(intense pulse light)を用いたもの、またそれらの複合機種などがわが国でも近年数多く使用されているが、副作用は少ないものの残念ながら一時的な炎症・腫脹による効果が主で、永続的・不可逆的臨床効果はまだ小さいのが現状である。最近レーザーの新しい治療法の概念として、fractional photothermolysis (FP)[1]がある。直径0.1mm程度の点状に無数にレーザーを照射して熱変性を加えることにより皮膚の若返りを期待する。従来の面状に照射するレーザーリサーフェシングに比べて施術時の痛みも小さく、上皮化が早い。
Photodamageによる真皮内血管拡張には色素レーザーが有効であり冷却装置の発達により、より副作用の小さい治療が可能になった。色素レーザーは小じわや張りの改善を目的とした治療への応用も行われている。
4) 注入剤filler
 皮膚内、組織内に注射して充填することを目的とした注入剤のことをフィラーfillerと呼び、90年代に入りコラーゲンを利用した注入剤が開発され、その簡便さからシワ治療を中心に急速に普及するに至った。わが国で承認されているのはウシ(米国産)由来コラーゲン製剤のみで、アレルギーを検査するスキンテスト(1ヶ月の経過観察)が義務付けられている。しかし医師の個人輸入の形で、スキンテストが不要とされているヒトヒアルロン酸(リコンビナント)やヒト由来コラーゲンの製品が使用され広く普及している。ヒアルロン酸は粘度が高く細かいシワには不向きであるがvolumeが欲しい場合には逆に有利である。コラーゲンは粘度が低く、細かいシワにも使いやすい。ヒト由来コラーゲン注入剤は、新生児の割礼皮膚から採取された培養線維芽細胞が三次元シート上で産生したコラーゲン線維を抽出・利用した製品でFDAの承認を得ている。治療効果、持続期間はウシコラーゲン製品とほぼ同等である。スキンテストが不要といってもアレルギー反応を起こすことがある。
粉末状になっていて溶解して使用するタイプの製剤も見られるが、製品によっては溶解後の製剤が不均一で、塞栓などの合併症を誘発する場合があるので注意を要する。合成樹脂などの異物を混入、利用した製品も存在するが、異物反応による後遺症例も多く見られ、長期的安全性に問題がある。
5) ボツリヌス菌毒素
 神経毒であるボツリヌス菌毒素の注射剤はわが国でも眼瞼痙攣や顔面痙攣などの不随意運動の治療に用いられているが、顔面の表情筋を麻痺させることにより動きジワを目立たなくすることができるために美容目的に多用されている。また表情筋を麻痺させるため、同部位に処置を行ったfillerの吸収消失を遅らせることが可能となる。米国ではFDAが2000年に美容目的についても承認した後、2004年には年間300万件(米国形成外科学会統計)と脅威的に普及した。
注射後1週間で完全に麻痺となり、その後時間とともに2〜6ヶ月で回復する。短期的に再注射する場合は抗体産生を誘発し、その後薬剤耐性が樹立される場合があるので注意を要する。上瞼の下垂があり眉毛を挙上している患者では、前頭筋への施術は避けることが望ましい。
6) 内科的治療
 皮膚のアンチエイジングを目的とした内科的治療は有効性についてはまだエビデンスは確立されていない。エストロゲンなどの女性ホルモン、抗酸化剤などが試行されるが、皮膚への臨床効果はまだ科学的な評価は十分になされていない。禿髪については、finasteride(プロペシア)などの抗アンドロゲン療法、ミノキシジルなどの血行改善薬が一定の有効性が確認されている。
7) 再生医療
 皮膚のアンチエイジングを目的とした再生医療として、海外では自家培養線維芽細胞の注入剤(isolagen)の製品化に向けた開発が行われている。コラーゲンなどのfillerとの差別化として永続的な治療効果が期待されているが、現在までのところ単回での有効性に乏しく複数回の注入が必要である。今後も新しい治療法の開発が予想される。

B:治療対象
1) しみ :加齢に伴うシミには、老人性色素斑(日光性色素斑)、肝斑などがある。老人性色素斑は通常の表皮タイプはQスイッチルビーやアレキサンドライトなどのレーザーによる1回の照射で治療が可能であり、照射後2〜4週間で炎症後色素沈着が見られた場合にはトレチノインを用いた漂白治療でやはり治療可能である。四肢や躯幹に見られる場合も同様であるが、上皮化までに2倍の期間を要する。肝斑はレーザー照射や光治療で炎症後色素沈着を残すことが多く、トレチノイン・ハイドロキノンによる漂白療法が望ましい。トランサミンの内服も効果が見られることがある。その他、表皮と真皮双方に色素沈着が認められる症状(色素沈着型接触性皮膚炎、後天性真皮メラノサイトーシス、老人性色素斑の一部など)には、Qスイッチレーザーと外用療法の併用が必要で、さらに反復治療を要する。老人性色素斑は発症からの長期間経過したものでは、角質肥厚、真皮菲薄化、メラノゾームの真皮内滴落が見られることがある。的確な臨床診断が治療の鍵となる。
2) しわ :
i) 前額:眼瞼下垂を伴う症例ではボツリヌス菌毒素治療は注意を要する。ヒアルロン酸注入は前額においては吸収が遅く長期的に残ることがありやはり注意を要するため、コラーゲン注入が無難である。
ii) 眉間:皺鼻筋収縮の影響で深い縦ジワができやすい。コラーゲン、ヒアルロン酸ともに使えるが、筋収縮により吸収が早い。ボツリヌス菌毒素は皺鼻筋の動きを止めるとともにfillerの吸収を遅くすることができる。
iii) 眼瞼周囲:動的な笑いジワにはボツリヌス菌毒素を、静止時にも明らかなカラスの足跡にはコラーゲンが有用である。眼瞼周囲は皮膚が薄いため、コラーゲン注入にも技術を要する。ヒアルロン酸は皮内では注入物が目立つので、筋層より深い層に窪みや影を消すために使用されることがある。
iv) 鼻唇溝:コラーゲン、ヒアルロン酸ともに有効で、広く使用されている。
v) 口唇:白唇の縦ジワにはコラーゲン注入を皮内に、赤唇縁にはヒアルロン酸を筋層に使用する。
vi) マリオネットライン:コラーゲン注入が細かい改善が得られやすい。ボリュームが欲しい場合はヒアルロン酸を使用する。
3) 張り :張りの改善を目的としたいくつかのレーザー、光治療器、高周波治療器が存在する。ケミカルピーリングやビタミンCのイオントフォレーシスなども行われる。
4) くすみ :張り同様にレーザーや光治療器が存在する。トレチノイン・ハイドロキノンを用いた外用治療、ケミカルピーリングやビタミンCのイオントフォレーシスなども行われる。
5) イボ(老人性疣贅、脂漏性角化症、アクロコルドン):脂漏性角化症の場合はスキャナー付の炭酸ガスレーザーやEr:YAGレーザーで1回の治療で丁寧に削ることができる。炎症後色素沈着は通常見られない。液体窒素での治療は複数回の治療になることが多く、炎症後色素沈着も高頻度に見られる。
6) 血管拡張、赤ら顔:まずは脂漏性皮膚炎を除外する。脂漏性皮膚炎であれば、ステロイド外用、ビタミンC外用、スピロノラクトン内服などを行う。紫外線による血管拡張であれば、色素レーザー(冷却装置付)での照射治療を数回行う。
7) たるみ:非外科的治療の有効性は極めて限定的であり、フェイスリフトなどの外科的治療が必要となる。
8) 陥凹:頬、こめかみ、上・下眼瞼の加齢による陥凹変形については、自家脂肪注入が一般的で、ヒアルロン酸注入も行われる。
9) 薄毛、禿頭:finasterideの内服(1mg/day:5α-reductase阻害剤)、minoxidil(血管拡張剤)外用・内服などが行われる。

おわりに
 老化皮膚は結果であるが、老化は常に進行中である。治療により改善されてもやはり老化が進行する。皮膚のアンチエイジング治療の中には、fillerやボトックスなど一時的な治療効果のものも多い。数年後に同じ老化程度の皮膚であれば(エイジングが進行していなければ)、その間の治療により大きな改善が行われたことを意味する。すなわち、アンチエイジング治療は、本来、継続的な治療であり、反復治療であって、一時的な効能、効果であることはその治療価値をなくすものではない。しかし、治療効果を少しでも長く続くものにする努力はすべきであり、治療を行うのであれば明確な効果が高率に実現されなければならない。仮に治療メカニズムがはっきりしないのであれば、最低限、治療による臨床効果は科学的な評価を経て正当化されたのちに、普及されるべきである。今後アンチエイジング治療が患者からの信頼を伴ってさらに発展していくためにも、治療する医師サイドにおいて各治療法を厳しく評価をしていくことが必要であろう。

参考文献
1)Manstein D, Herron GS, Sink RK, Tanner H, Anderson RR. Fractional photothermolysis: a new concept for cutaneous remodeling using microscopic patterns of thermal injury. Lasers Surg Med. 2004; 34:426-38.


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