Cosmetic Medicine in Japan -東京大学美容外科- トレチノイン(レチノイン酸)療法、アンチエイジング(若返り)
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ニキビ治療マニュアル- ホルモン療法

東京大学医学部形成外科

吉村浩太郎 (2004年9月)


はじめに
 性ホルモン、とくにアンドロゲンがざ瘡の形成に影響していることは良く知られており、これまでにも多くの報告が見られる。特にジヒドロテストステロン(DHT)が皮脂中のトリグリセリドの産生を促進し、過剰な皮脂の分泌がざ瘡形成の原因の一つとなる。またトリグリセリドがPropionibacterium acnesの栄養源となり炎症性丘疹をみる。
このようなアンドロゲンの影響を抑える治療である抗アンドロゲン療法は、これまで主に前立腺癌や前立腺肥大などの治療に使われてきた。しかし皮膚領域においても、アンドロゲンによって惹起される、または増悪する疾患や症状に対して有効である。たとえば、男性型禿髪、尋常性?瘡、多毛症などである。アンドロゲンの作用軸をまとめると図1のごとくであり、どの段階において作用を抑えるかで、いくつかの治療法に分類することができる。(図1)。


図1:性ホルモンの変換過程と各抗アンドロゲン療法

GnRH: Gonadotropin Releasing Hormone
DHEA: Dehydroepiandrostendione

またホルモン療法を行う上での適応として、Zouboulisらは表1を示している (1)。
これらのホルモン療法はしばしば長期間続けざるを得ないこと、また胎児への影響が不明であるため治療中に妊娠することは避けなければならない。



1.経口避妊薬
近年処方される経口避妊薬には、プロゲストゲン(progestogen)のみのピルと、低用量のエストロゲン・プロゲストゲン併用型ピル(エストロゲン50μg以下、プロゲストゲン1.5mg以下を含有)がある。旧世代の製剤に比べ心臓疾患ならびに血栓症のリスクが著しく低い特徴を持つ。
抗アンドロゲン作用を示す酢酸シプロテロン(Cyproterone acetate;商品名Androcur? 日本では発売中止)はヒドロキシプロゲステロンに属する合成プロゲステロンで、ざ瘡および多毛症に効果が見られ、海外では良く使われているが、日本では以前前立腺癌の治療に使用されたが肝癌などの副作用報告がみられ発売が中止された。すなわち、日本人には適さない。酢酸シプロテロンはデヒドロエピアンドロステロンからアンドロステンジオンへの変換抑制作用を持つとともに、副腎でのアンドロゲン産生を抑制したり、アンドロゲン受容体での競合阻害をするとされている。酢酸シプロテロンは低容量のエストロゲンとの合剤で経口避妊薬としても処方される(商品名;Dianette?、海外のみ)。3ヶ月間の内服後、血清ゴナドトロピン、テストステロン、アンドロステンジオンは減少していた。また血清DHT、DHEA-Sの減少も認められ、ネガティブフィードバックからこれらのホルモン生成が減少すると考えられている(1)。
わが国でも広く使用されている低用量のエストロゲン・プロゲストゲン併用型ピルを投与した場合、副腎、卵巣、末梢組織由来のテストステロンの減少が観察される。一方、高容量のエストロゲン・プロゲストゲン併用型ピルを投与した場合は、副腎、末梢組織由来テストステロンの減少が見られる。両者の投与により、遊離テストステロンは同程度減少し、臨床的にはざ瘡の形成は同程度減少したと報告されている(2, 3)。経口避妊薬は卵巣でのアンドロゲンの産生を抑制し、血清中のアンドロゲンレベルを下げて皮脂分泌を抑制する働きを示す。副作用として浮腫、血栓症、食欲増加、体重増、情動の低下、breast tendernessをしばしば示し、注意が必要である。
経口避妊薬はLHを低下させテストステロンの産生を抑えるので、血中テストステロンレベルの高い?瘡患者には一定の効果がみられる可能性が高いと考えられる。避妊薬であるので、治療中の妊娠の心配はない。実際の使用法としては月経が終了してからはから21日間連続服用する。これを1クールとし、1週間の休薬期間をおいて次クールを再開させる。最後の7日間はプラセボを飲むように配慮した28日製剤も多い。
また内服によりざ瘡が悪化する事がある。これはエストロゲンによりsex hormone binding globulin (SHBG)が減少し遊離テストステロン濃度が上昇するためと考えられている。また脂質代謝への変化や、血糖レベルの上昇、それに続く耐糖能低下などによる可能性も考えられる。

2.スピロノラクトン
アルドステロンの拮抗薬であるスピロノラクトン(spironolactone)は我が国でも古くから高血圧の患者を中心に広く使われ、長期使用時のエストロゲン類似作用は1960年代に報告された。その作用のみならず、アンドロゲン受容体を競合阻害する作用があると考えられ、ヒトと動物において抗アンドロゲン作用を示す事が知られている(4, 5)。
現在までに知られているスピロノラクトンのホルモン作用について、表2にまとめた。


これらの効果によりスピロノラクトンは抗アンドロゲン剤として認知され、多くの臨床トライアルがおこなわれた。ニキビに対して1日あたり50-300mgの投与で改善が見られたとの報告がある(6, 7)。副作用として男性における女性化乳房や女性における生理不順などが報告されている(7, 8)。スピロノラクトン内服における副作用の発生機序は完全には解明されていないが、表1に記載したスピロノラクトンの持つホルモンへの多様な作用に起因すると考えられる。たとえば、プロゲステロンの増加、エストロゲンの増加、レセプターレベルでの抗アンドロゲン作用、GnRHの分泌自体の変化、などの可能性が挙げられる。
Messinaらは、多毛症への治療にもスピロノラクトンの内服を用いており、副作用として生理不順などが必発し、投与量が多いほど強いと述べている。またMessinaらは経皮吸収剤を作成し局所投与によっても男女を問わず改善したと報告しており、本邦でもYamamotoらが局所投与によっても一定の効果はみられたが、作用の発現までに時間がかかる事を示している(9)。
 これらをふまえて著者らは2001年からスピロノラクトンによる治療を行っている。対象は尋常性ざ瘡の中でも、難治性のもの、重症度が高いもの、胸部や背部など広範囲にわたるもの、月経不順を伴うもの、などである。いくつかの注意点はあるが、治療効果、有効率はきわめて高い結果が得られている。?瘡は通常繰り返すため、現在存在する?瘡の治療(レーザー、ケミカルピーリングなど)と平行して、新生?瘡を抑える治療が求められる。こうした予防効果はレチノイド(外用・内服)でも得られるが、スピロノラクトン内服の効果は非常に高い。治療開始後2週間で皮脂分泌の劇的な減少が見られることが多く、重症の脂漏性皮膚炎の有効な治療としても応用可能である。
 患者に対する一日量は通常初回200mg(50mg錠を朝2錠、夜2錠)で開始する。治療開始前に血液検査でホルモン状態をチェックし、月経の周期などを確認する。200mg内服しても、利尿効果が強くおこる事は通常見られない。スピロノラクトンの内服を開始しても、現存するコメドや炎症性丘疹の治療効果はないため、自宅でピーリング剤によりホームピーリングをさせるか、希望に応じて炭酸ガスレーザーでコメドを排出させたり、V-beam? (Cooling Device付きDye Laser)の照射を併用したりする。
投与開始後は必ず2週間毎に来院させ、副作用や不正出血の有無を経過観察する。通常2週間で皮脂分泌が著明に減じ、4週間以降は新生?瘡が減少する、もしくは見られなくなる。4週間程度新生?瘡が見られないことを確認できたら、投与量(1日)を200→150→100→50mgと1カ月毎にテーパリングする(図2)。十分に効果を確認できている患者においてはテーパリングを行えば、症状のリバウンドは特に認められない。しかし、6ヶ月以上経過して?瘡が見られることがある。
20代以降の女性でざ瘡患者にはよく月経不順が認められるが、月経不順のない患者でもスピロノラクトンの内服によりほとんどの患者で不正性器出血や月経周期の異常が見られる。これがスピロノラクトン自体の作用か、余ったテストステロン・DHTからエストロゲンに変換されての作用か、機序は明らかではない。対処法としては、@経口避妊薬またはプロゲステロン製剤を21日周期で投与し完全に月経をコントロールしてしまう、もしくはA不正出血や月経異常が続く場合は3ヶ月をめどにエストロゲン・プロゲステロン注射(デポー剤、筋注)をおこなう。この場合は注射後7-10日程度で月経が見られる。男性の副作用には女性化乳房が挙げられ、とくに若年者で多く見られる。男性患者には原則として使用しないことが望ましい。
著者らが行った血液検査のデータでは6ヶ月間以上治療をおこなった37名においては、血清AST、ALT、BUN、Cr、Na、K、Cl、総テストステロン、遊離テストステロン、DHEA-S、SHBG、LH、FSH、抗核抗体、IgE、等は有意な変化を認めなかった。すなわち、基礎疾患がなければ本治療において通常電解質異常は引き起こさない。無論、腎機能異常など基礎疾患のある患者においては注意を要する。


図2:Spironolactoneの投与プロフィール


症例1
 23才女性、20歳時よりざ瘡が頻発し、ビタミン剤及びテトラサイクリンの内服治療を続けたが無効であった。初診時(a)多発する炎症性丘疹を認めスピロノラクトンを一日200mgから内服を開始した。3ヶ月目(b)においてはほぼ治癒し、徐々に内服を減量させた。

3.フルタミド
アンドロゲン受容体競合阻害作用を示す薬剤としてフルタミド(flutamide)があり、前立腺癌の治療目的に使用されている。代謝され2−ヒドロキシフルタミドとなり活性を示し5αジヒドロテストステロンがレセプターに結合するのを妨げる。また有効なアンドロゲンを早く変換させる働きを示し、結果としてアンドロゲンは不活化され抗アンドロゲン作用を示す。1−6ヶ月間、1日量250−500ミリグラムで使用される。副作用としてフルタミドは肝障害の恐れがあり、ざ瘡の治療目的で長期使用する事は適当でないと考えられている。

4.フィナステライド
テストステロンからDHTを変換させる5α-reductaseの阻害剤である。5α-reductaseタイプ2の阻害薬であるフィナステライド (finasteride) が、日本では未認可だが海外では壮年期脱毛症の治療薬として使用されている(10)。

5.ケトコナゾール
 ケトコナゾール (Ketoconazole) はチトクロームP450のインヒビターでsteroidogenesis enzyme blockerである。1日200mg以上を内服しシメチジン(H2ブロッカー)と内服する事で弱い抗アンドロゲン作用を示す。

6.ゴナドトロピンリリーシングアゴニスト
Buserelin, Nafarelinおよび Leuprolideは脳下垂体でFSH、LHのliberationをブロックする事で卵巣や副腎でのアンドロゲン産生を抑制する。これらの薬剤はざ瘡や多毛症に効果が期待できる。しかし卵巣のアンドロゲンが抑制されると同じようにエストロゲンも抑制され、卵巣機能の抑制が起こる。その結果、患者は月経の停止や、頭痛や骨塩の減少等のエストロゲン欠乏症を呈する。したがって、ざ瘡治療目的では通常単独には使用されない。

おわりに
 ざ瘡は内的因子が深く関与しており、再発が多く、難治症例も多く見られる。これまで長期的な保存的治療が広く行われていたが、ホルモン療法はこうした難治症例に対しても十分な治療効果を発揮する。にきびの新生を抑える効果があるという意味では既存の治療とは明らかに一線を画す治療法である。しかしながら、患部皮膚だけでなく全身のホルモン動態に影響を与える治療となるため、内分泌・婦人科領域の十分な知識を持って行うことが要求される。

参考文献
1) Zouboulis CC & Piquero-Martin J. Update and Future of Systemic Acne Treatment Dermatology 206: 37-53; 2003
2) Coenen CMH, Thomas CMG, Borm GF, Hollanders JMG, Rolland R. Changes in androgen during treatment with four low-dose contraceptives. Contraception 53: 171-176; 1996
3) Thorneycroft IH, Stanczk FZ, Bradshaw KD, Ballagh SA, Nichols M, Weber ME. Effect of low-dose oral contraceptives on androgenic markers and acne. Contraception 60: 255-262;1999
4) Pita JC et al. Interaction of spironolactone (DHT) receptor of rat ventral prostate. Endocrinology, 97: 1521-1527, 1975
5) Berardesca et al. Topical spironolactone inhibits dihydrotestosterone receptors in human sebaceous glands: An autoradiographic study in subjects with acne vulgaris. Int. J. Tissu. Reac. 10: 115-119, 1988
6) Keahey TM et al. Suppresion of sebum excretion following treatment of acne and hirsutism with spironolactone. J. Invest Dermatology 80:359, 1983
7) Goodfellow A. et al.
Oral spironolactone improves acne vulgaris and reduces sebum excretion. Br J Dermatol. 111:209-214, 1984
8) Muhlemann MF et al.
Oral spironolactone: AN effective treatment for acne vulgaris in women. Br J Dermatol. 115:227-232,1986
9) Yamamoto A. & Ito M. Topical spironolactone reduces sebum secretion rates in young adults. J Dermatol.23: 243-246. 1996
10) Sudduth SL, Koronkowski MJ. Finasteride: the first 5 alpha-reductase inhibitor. Pharmacotherapy. 13: 309-325; 1993

 

 


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