Cosmetic Medicine in Japan -東京大学美容外科- トレチノイン(レチノイン酸)療法、アンチエイジング(若返り)
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レチノイン酸を用いたニキビの治療

吉村浩太郎 (1999年8月)


 AtRAは、本邦では未だ未認可であるが海外ではにきびの特効治療薬(商品名Retin-A?)として20年以上にわたり使用されてきており、その効果は海外では十分に認知されている。ニキビ治療薬のレチノイドとしてはその他、海外ではatRAの立体異性体であるisotretinoin(13-cis retinoic acid; Accutane)(内服、外用両方)や合成レチノイドであるCD271(adapalene; Differin)、tazarotene (Tazorac)(ともに外用のみ)がにきびの治療薬として海外では認可されている。Retin-Aはoil/waterクリーム(0.01-0.1%)やゲルなどの基剤で製品化されている。

 すでに海外で商品化されているものについては、個人輸入などの形で入手することが可能であり、インターネットの輸入代行業者などを通じて患者個人レベルでも数多く使用されているのが実状である。国内では未承認のため製品の形では購入できないが、レチノイン酸の原末を購入して院内調合することにより比較的簡単に患者に処方することが可能である。ニキビに対してはワセリンなどよりも、ローションやゲル基剤の方が効果的である。

[外用剤]
 筆者の施設では、0.1-0.4% atRA水性ゲル(以下、atRAゲル)、5%ハイドロキノン・7%乳酸プラスチベース(以下、ハイドロキノン乳酸軟膏)、及び5%ハイドロキノン・10%アスコルビン酸親水軟膏を独自に調剤して使用している。後者の2つは、にきび治療には原則的に使う必要はない。すべて(特にレチノイン酸)成分は不安定であるため、毎月1回調剤し冷暗所に保管する。筆者の施設のatRA水性ゲルの場合、冷暗所(4度C)保存、未開封においても1ヶ月で約10%のatRAが分解して失われることがわかっている。

[にきびの治療方法]
 0.1%atRAゲルをはじめは1日1回使用する。皮膚の反応を見て、使用頻度や濃度を調節することにより最大限にatRAの効果を引き出すことができる。(著者は米国での一般的な使用方法より高濃度のものを好んで用いている。米国では0.025%クリームや0.01%ゲルから始めて、反応を見ながら徐々に濃度を上げていく使い方をする医師が多い。)ミノマイシン、ビタミンB2、B6の内服など本邦の一般的なにきび治療を併用しても良い。混合治療は単独よりも効果を増す場合が多く、海外ではbenzoyl peroxide(2.5-10%ローションもしくはゲル)を1日2回塗布する治療も広く行なわれている。AHAのローションやビタミンCなど抗酸化剤のローションも奏効する。AtRA使用中は特に紫外線に敏感になるため、broad-spectrumのサンスクリーンを併用することが望ましい。使用開始当初は落屑や多少の炎症を伴うが活動性のニキビは2-3週間で劇的に改善する場合が多い。水性ゲル基剤は皮膚を乾燥させ新しい角栓の形成を妨げるため、ニキビの治療には好んで用いられるが、ひび割れなど他の障害を生じることがあるため必要に応じて保湿剤の適度な併用が求められる。治療の開始に際しては、副作用の十分な説明を行い、できるだけ頻繁に(最低週に1回)受診することを指示する。経過としては、使用開始より数日中に落屑がみられることが重要な目安になる。発赤も見られることが多いが、アレルギー性のものではないので、原則的にそのまま使用を続ける。乾燥して皮膚が切れたりすることもあるが、使用回数を調節したり保湿剤を適度に使用する。ステロイド剤は患部には極力使用しないようにし、患部以外に皮膚炎が広がった場合にはその部位に使用しても良い。とくに昼間は遮光を励行させる。1週間を経過しても落屑が見られない場合は濃度を0.2%などへ上げるか、使用回数を増やすなどの指示を行い、適度な反応が見られるようにしていく。角栓が剥がれ、徐々に皮脂の分泌が押さえられるとともにニキビは沈静していく。通常は4-6週間、治療を継続していく。発赤や痂皮形成は徐々に耐性を獲得することによりおさまっていくが、遷延する場合は外用を中止すれば次第に消失する。個々のニキビの炎症による赤みは時間(通常2-3ヶ月程度)が経過するのを待つしかないが、その間新しいニキビができないように慎重なケアをしっかりと続けることによって始めて全体的に赤みが目立たなくなる。活動性のにきびが沈静化した後、にきび跡の凹凸が非常に目立つ場合には、レチノイン酸前療法の後にアブレージョンなどを行う。

[にきびに対するレチノイン酸の働き]
 AtRAは表皮角化細胞の増殖を促進するとともに、分化を制御して角質を薄く剥がれやすくする作用が認められている。ニキビにおいてはatRAは角栓を剥がし(毛孔周囲の落屑を正常化)、毛孔からの面疱内容物の排出を促すし、微小面疱の形成を妨げる。角栓を剥がすことにより、抗生剤など他の外用剤の浸透を促す。皮脂の分泌も抑制すると言われている。さらに炎症性面疱内容物の周囲組織への漏出を防ぐため、結果的に炎症反応の遷延を防ぐことになる。

症例

症例1(図1A,B). 23歳、女性。顔面全体に紅色丘疹が散在、一部膿疱を形成している(治療前: 図1A)。0.1%atRAゲルの外用を行った。8週間継続し、新しいニキビはできなくなり、炎症も徐々に収まった(8週後: 図1B)。

症例2(図2A,B). 21歳、女性。下顎部の難治性のニキビ。紅色丘疹が集簇しており、一部瘢痕化している(治療前: 図2A)。数年前よりいくつかの治療を受けているがなかなか改善しない。0.1%atRAゲルの外用を行った。2-3週後には改善傾向が見られた。6週後の状態では新しいニキビはできなくなった(6週後: 図2B)。

症例3(図3A-D). 19歳、女性。両頬部、口周囲に微小面疱から膿疱、治癒後の炎症まで混在している(治療前: 図3A,B)。脂性肌で、日常のケアにも苦労している。0.1atRAゲルで始め、0.4%まで濃度を上げた。脂性肌も改善し、新たなニキビも減少した(8週後: 図3C,D)。

症例4(図4A-D). 26歳、女性。両頬部、口周囲を中心としたニキビがなかなか治らない。紅色丘疹、膿疱が散在しており、一部膿瘍化している(治療前: 図4A,B)。0.1%atRAゲルで治療を開始し、0.4%まで濃度を上げた。膿瘍は瘢痕化し新しいニキビは減少して、炎症も落ち着いた(14週後: 図4C,D)。

症例5(図5A,B). 28歳、女性。口周囲に紅色丘疹が次々にできてきてなかなか治らない(治療前: 図5A)。0.1%atRAゲルで開始し、0.2%まで濃度を上げた。6週間の治療で大きな改善が見られた(6週後: 図5B)。

[ニキビ跡の治療]
 ニキビ跡は真皮性の変形が主であり、レチノイン酸治療のみでは十分な改善は難しい。従って、真皮に達するlazer resurfacing(炭酸ガスレーザー)、ピーリングやアブレ-ジョンなどが必要であり、筆者は改善効果の面からアブレ-ジョンを好んで用いている。筆者はアブレージョンを行う場合でも、4週間程度のatRA外用による前療法を必ず行っている。AtRAを使用することにより、術後の上皮化が促進され、臨床結果に反映される。使用法はニキビの治療とほぼ同様である。アブレ-ジョン直前はatRAの濃度を上げる場合も多い。ハイドロキノンなどの漂白剤(美白剤)の外用をあわせて行う場合もある。アブレージョンは顔面広範囲にわたって行う場合が多いため全身麻酔が望ましいが、患者が入院を希望しない場合は、外来の静脈麻酔(ペンタジン、ケタミン、デュプリパン)で行っている。手術後は1時間ほど安静にしていれば独歩帰宅可能である。アブレージョンは十分深く行い、周囲は浅くしていく。瘢痕により大きな凹みがある場合は事前にディスポパンチで吊り上げ修正を行っておくと良い。膿瘍、嚢腫形成により、アブレージョン後に大きな陥凹を生じる場合は7-0ナイロンで軽く縫合しておくと良い。この場合、縫合糸は5-7日後に抜糸する。アブレージョン後は、エキザルべ軟膏、アダプテック(網状被覆材)で上皮化(7-10日)までwet dressingを行い、その後は基本的には日焼け止めクリームや保湿剤でケアしている。術後2-4週間において、周辺部を中心に炎症後色素沈着が見られる場合が多いが、atRA、ハイドロキノン併用で2-3週間程度治療することによって、速やかに消失する。患部の赤みが完全に消失するには約2ヶ月を要する。

症例

症例6(図6A-D). 33歳、女性。ニキビは今はできなくなったが、ニキビ跡と毛穴の開きが気になり、来院した(治療前: 図6A,B)。0.1-0.2%atRAゲルで6週間の前療法を行い、静脈麻酔下にアブレージョンを行った。治療後3週間で治療周辺部を中心に炎症後の色素沈着が見られたため、0.2%atRA、5%ハイドロキノン・7%乳酸軟膏で3週間治療した。アブレージョン後10週間で赤みも完全に消退した(治療後: 図6C,D)。

症例7(図7A-D). 21歳、女性。中学生時よりニキビが絶えることなく、ニキビ瘢痕による皮膚の凹凸も顕著である。現在も面疱、紅色丘疹が絶えない(治療前: 図7A,B)。0.1-0.2%atRAゲルを用いて4週間の前療法を行い、全身麻酔下にアブレージョンを行った。術後3週間で炎症後色素沈着が見られたため、0.2%atRA、5%ハイドロキノン・7%乳酸軟膏で2週間治療した。アブレージョン後8週間で大体赤みも消退した(治療後: 図7C,D)。

参考文献
1. Kligman AM: The treatment of acne with topical retinoids: one man’s opinion. J. Am. Acad. Dermatol. 36: S92-95, 1997.
2. Kligman AM: How to use topical tretinoin in treating acne. Cutis 56: 83-84, 1995.

注意:図に関しては、メディカルコア社、美容皮膚科学(平成12年発刊)をご覧ください。

 


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